大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(ラ)1137号 決定 1997年6月23日

抗告人

東京三多摩地域廃棄物広域処分組合

右代表者管理者

臼井千秋

抗告人

日の出町

右代表者町長

青木國太郎

右抗告人両名代理人弁護士

石井芳光

高谷進

酒井憲郎

三木祥史

松丸渉

戸井田哲夫

相手方

田島喜代恵

右代理人弁護士

梶山正三

釜井英法

樋渡俊一

佐竹俊之

平哲也

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方と抗告人らの間の東京地方裁判所八王子支部平成六年(ヨ)第五九四号資料閲覧謄写許容仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成七年三月八日にした仮処分決定を取り消す。

三  相手方の右仮処分命令申立を却下する。

四  手続費用は原審及び当審を通じて相手方の負担とする。

理由

第一  当事者らの申立て

抗告人らは主文第一、三項と同旨の決定を求め、相手方は抗告棄却の決定を求めた。

第二  事案の概要

次のとおり付加するほかは、原決定理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  第二事案の概要二主な争点2の末尾に「又は、相手方は、第二二自治会構成員として、同自治会と抗告人らとの間に締結された公害防止協定一二条(4)に基づく資料の閲覧等の請求権として、謄写請求権を有するか。」と付加する。

2  右同主な争点4として「本件資料中の地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時監視データ(二四時間連続測定)を記録した資料(昭和五九年四月から平成六年一一月までのもの)(以下「本件電気伝導度データ」という。)は現在するのか。」を付加する。

第三  争点に対する判断

一  争点2(相手方は、第三自治会が締結した公害防止協定一二条(4)所定の「周辺住民」として本件資料の閲覧、謄写請求権を有するか。又は、第二二自治会が締結した公害防止協定一二条(4)に基づく資料請求権として、本件資料の閲覧、謄写請求権を有するか。)について

1(一)  相手方は、抗告人日の出町の第二二自治会の会員であること、第三自治会並びに抗告人らの三者間には、昭和五七年七月九日、公害防止協定(甲一三)(以下「本件三自治会協定」という。)が締結され、第二二自治会と右抗告人らの三者間にも昭和五七年七月一二日に公害防止協定(甲二)(以下「本件二二自治会協定」という。)が締結されていること。

(二)  右各自治会協定はいずれも同一文言のもので、その各一二条には左記のとおりの規定がある(ただし、同条の表題は処分場の監視組織とされている項目であって、甲は抗告人日の出町、乙は抗告人処分組合、丙は第三自治会もしくは第二二自治会の呼称である。また、同条(2)、(3)は省略する。)。

第一二条 乙は、甲が指名する甲の職員、甲又は丙が委嘱する監視員並に丙の住民(以下「監視員等」という。)が監視等の必要のため処分場内に立入る場合、誠意をもって対応し、次の事項を遵守しなければならない。ただし、監視員等の範囲は甲又は丙があらかじめ乙に報告するものとする。

(1) 乙は、監視員等に対して、処分場の造成工事開始から、廃棄物の埋立開始、完了、閉鎖までの間随時、必要に応じて乙の所有する資料を閲覧させなければならない。又、監視員等から廃棄物その他の試料の採取又は資料の提供の要求があったときは、それに応じなければならない。

(4) 乙は、処分場に関する資料の閲覧等について、周辺住民から要求があったときは、甲を通じて資料の閲覧又は提供を行なわなければならない。

2  そして、第三自治会と抗告人ら及び第二二自治会と抗告人らとの間には、いずれも右各自治会協定の一五条二項を根拠に公害防止細目協定が定められていること。

ただし、右各公害防止細目協定の内容は右両自治会ごとに異なっていて、第二二自治会が締結した右細目協定(甲一四)(以下「第二二自治会細目協定」という。)の第一、第二条の内容(第二条の4から7までは省略する。)は左記のとおりであること。

第一条 甲、乙及び日の出町第三自治会が昭和五八年一二月一九日に締結した、日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場に係る公害防止細目協定書を準用するものとする。

第二条 前条の細目協定書中、乙が丙に行う報告は次のとおりとし承認(了承を含む。)及び立ち会いを必要とする事項は削除するものとする。

① 第1条(処分場の維持管理)第7項(浸出液処理施設の機能点検)の圧送管部の漏水検査結果

② 第1条第9項(地下水の水質検査)の別表2の地下水の検査結果

③ 第1条第14項(騒音、振動、降下ばいじん調査)の別表5、6の検査結果

以上の事実は当事者間に争いがない。

3  そして、本件疎明資料によれば、

(一) 抗告人日の出町には二八の自治会があるが、抗告人らとの間で公害防止協定を締結したのは第三自治会と第二二自治会のみであった。

(二) 抗告人処分組合は、廃棄物広域処分場設置の候補地の一つとして日の出町谷戸地区を選定し、同地区を管掌する第三自治会に対し、昭和五五年八月四日には処分場設置についての予備的調査の実施を、次いで同年一一月七日には処分場設置の各申し入れをした。これに対して、第三自治会は、処分場の設置による地下水の汚染、河川汚濁、交通公害、洪水等の発生に対する懸念から種々の議論はあったが、最終的には右申し入れを受け容れることとし、昭和五六年三月三〇日、抗告人処分組合に対し、公害防止のための対策を講じて環境保全に万全を期すことを条件に、処分場設置を基本的に同意した(乙六六)。そこで、これを受けた抗告人日の出町も、第三自治会に対して環境保全に責任をもつ旨の念書(乙六七)を差し入れたうえ、抗告人処分組合に対して処分場設置に同意を与えることとした。

(三) 抗告人処分組合は、同年一二月二八日、抗告人日の出町との間に、環境保全に最大限の努力を払う旨の内容の基本協定を締結し、次いで、昭和五七年七月九日には、第三自治会との間に本件三自治会協定を締結した。

そして、さらに抗告人処分組合と第三自治会との間においては、その後長期間処分場の建設に当たっての処分場地下水の水質に係わる環境保全、防災対策等についての協議がなされたうえ、昭和五八年一二月一九日、抽象的な条項に止まっていた本件三自治会協定により具体的な内容を与える公害防止細目協定(乙一三)(以下「第三自治会細目協定」という。)が締結された。

(四) 一方、第二二自治会が管掌する地区には処分場は設置されないこととなったが、同地区内に処分場への資材の搬入道路や覆土材に使用する残土置き場を設置したい旨の申し入れがされたので、第二二自治会は、その関係での公害防止協定の締結を検討することとした。しかし、その検討のための抗告人処分組合の説明会は、本件三自治会協定が締結された翌日である昭和五七年七月一〇日になって初めて開催され、そこで基本的な承認がされたので、同月一二日に本件三自治会協定に倣って前記のとおり同文の本件二二自治会協定が締結された。そして、昭和五九年二月九日、抽象的な条項に止まっている右協定に具体的な内容を与える第二二自治会細目協定が同じく第三自治会細目協定に倣って締結されたが、その内容は、第二二自治会の管掌地区における問題は、前記のとおり処分場への搬入道路、残土置き場関係が中心であったので、第三自治会の場合とは異なって、処分場地下水の水質に係わる環境保全、防災対策についての協議はされなかったばかりでなく、準用された第三自治会細目協定のうちから右問題に見合うように処分場の地下水の水質検査の部分が報告事項の対象から除外されたものとなった。

以上の事実が認められる。

4  右事実関係によれば、本件処分場施設の設置に関し、抗告人日の出町を加入させて、抗告人処分組合と公害防止協定を締結したのは、その設置によって環境に直接影響を被る虞れのある地域の自治会のみであった。そして、その対象となった第三、第二二の各自治会が締結した各公害防止協定は、同一文言の抽象的内容部分の多いものであったことから、それぞれ自治会ごとに異なった実情に必ずしも適合した内容となっていなかった。そのため、前記各細目協定によって公害防止協定の具体的な内容が定められたもので、右各細目協定は、公害防止協定の単なる実施細則というものではなく、各公害防止協定そのものと相俟って、その権利、義務そのものを具体的に定めたものとなった。

そして、右各細目協定を含めて各公害防止協定が締結されるに至った経過からすると、第三、第二二、の各自治会は、各地区の実情、具体的には処分場ないし残土置き場等の設置から発生することが危惧された公害を具体的に防止する措置を講じて、各地域の生活環境の保全と衛生及び自治会構成員の健康を守るために、抗告人処分組合及び抗告人日の出町との間で、実質上同地域の住民を代表して各自治会のそれぞれの立場から、各公害防止協定を締結したものであったと認められる。

したがって、右各協定に定められた各資料閲覧請求権は、その自治会所属の住民のために獲得されたものと解するのが条理に合致する解釈である。このことは、抗告人日の出町、抗告人処分組合並びに第三及び第二二の各自治会の各交渉担当者らが、一致して、当該地域の住民の任意組織であるという自治会の性質上、また、これまで自治会はその管掌地区内の事項についてのみその自治会構成員だけのために意見を述べたり、各種協定を締結するという機能を果たしてきたもので、他地区に関する事項ないし他の自治会構成員に直接影響を及ぼす協定等を締結したことはなかったという歴史的経過からして、各公害防止協定の効力は、当該自治会及びその構成員たる住民にのみその効力を及ぼすもので、それを超えて日の出町の住民一般まで効力を及ぼすものとは当初から解していなかったこと(乙第一六号証の一、二、同第一九ないし第二四号証等)からも裏付けられる。

なお、各公害防止協定一二条(4)には、同条中の他の権利行使主体を示す文言とは異なり、かつ、当該自治会との関連が直接示されていない資料閲覧等の請求主体として「周辺住民」との文言が用いられているが、各公害防止協定の冒頭には、地域住民のためにとの表現で、処分設置による公害を防止してその生命財産の安全を確保するたために第三又は第二二自治会は公害防止協定を締結することがその目的として謳われ、次いでその第一条でも抗告人処分組合に地域住民の健康と生活保全を図るための遵守事項が定められ、さらにその第一三条では抗告人処分組合に対して地域住民のために処分場の安全対策等についての措置を講じることを義務付ける旨の条項が存するところからすると、各自治会はその管掌する地区の住民のために処分場の公害防止のための監視に当たり、前記監視員等に選任されなかったことからその直接の監視権限を行使し得えない当該自治会の構成員である地域住民に、右監視行為に代わるものとして、監視行為に関連する処分場の資料についての閲覧等の請求権を付与するものとしたと解されるので、各公害防止協定一二条(4)の「周辺住民」とは、右地域住民と同義であると解するのが相当である。

そして、各公害防止協定中には、右一二条(4)を除くと右「周辺住民」との文言は全く存在しないものであって、その文言が公害防止協定中に存在するに至った経緯としては、その協定締結交渉中に、参考のひな型とされた他地域の公害防止協定書の文言の修正変更がなされる中で、当然、協定当事者である自治会構成員を指す文言に調整されるべき右文言が、調整されないまま残存したもので、本件協定締結当事者には「周辺住民」という別個の概念を用いて前記地域住民と異なる範囲の権利者を規定する意図は無かったものと推認(乙第八七ないし第九六号証)されるものである。

したがって、本件三自治会協定が第三者のための契約を含むものとはいえないので、第三自治会の構成員ではない相手方が、本件三自治会協定一二条(4)の「周辺住民」として、本件資料の閲覧等の請求権を行使することはできないものと判断される。

また、相手方は、第二二自治会の構成員であるので、本件二二自治会協定一二条(4)所定の資料の閲覧等の請求権を有することは明らかであるが、右資料の範囲等を具体的に定める規定はないところ、本件資料は、第三自治会細目協定では検査、点検の対象となっている事項に関する資料ではあるが、右自治会協定を具体化した第二二自治会細目協定では、いわゆる処分場周辺井戸の水質検査結果についてのものを除いて、処分場そのものの地下水の水質検査結果についての報告がわざわざ除外された結果、本件資料は、その除外された報告事項にかかる水質検査等に関する資料となっているのであるから、処分場の監視組織の表題の下に処分場への監視、報告等の方法を定めた一二条中の一部の条項である(4)の資料には、本件資料は含まれないものと解するのが相当である。

なお、相手方は、第二二自治会細目協定において除外されたのは、抗告人組合の前記事項に関する第二二自治会に対する報告義務のみであって、同自治会構成員個人の資料の閲覧請求に対する義務は除外されていない旨主張しているが、これは、本件各公害防止協定及びその細目協定では、報告義務の範囲を具体的に規定しているものの、閲覧等の請求の資料については明文をもってその範囲を特定していないし、本件二二自治会協定及び第二二自治会細目協定が、主として同自治会の管掌地区における搬入道路、残土置き場に関係する公害の防止のために締結されたもので、第三自治会では処分場自体での水質検査を報告事項の一つとしているのに対し、第二二自治会ではそれを報告事項から除外するためにわざわざ第二二自治会細目協定から、水質検査に関連する事項を削除したというその締結の経緯に照らすと、右報告義務と自治会の構成員が請求できる閲覧等の資料の範囲が全く別個のもであると解すことは相当でない。

さらに本件全疎明を検討しても、相手方に本件資料の閲覧、謄写請求権を認めるべき実質的理由も見出し難い。

したがって、相手方の右主張は採用できない。

よって、相手方は、本件二二自治会協定一二条(4)に所定の資料閲覧等請求権に基づいても、本件資料の閲覧等を求めることはできないことは明らかである。

第四  結論

以上によれば、相手方は抗告人処分組合、抗告人日の出町に対して、公害防止協定上本件資料の閲覧等の請求権を有しないこととなるので、他の点について判断するまでもなく本件仮処分命令申立は被保全権利が存しないので、同申立ては却下を免れない。

よって、本件仮処分命令を認可した原決定は相当でないのでこれを取り消し、あわせて本件仮処分命令を取り消して、同命令申立てを却下することとし、手続費用については、原審及び当審を通じてこれを相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官渡邊昭 裁判官池田亮一 裁判官廣田民生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例